もう、十年くらい前のことだ。
日本にミネラルウォーターなるものが普及し始めた。

「ただで手に入る水を、わざわざお金を出して買うわけない」
最初は誰もがそう思ったのではないだろうか。
かく言うオレも思っていた。

だが、今はどうだろう。
コンビニの陳列棚にはたくさんの種類のミネラルウォーターが並んでいる。
店によっては、ペットボトル飲料の半分がお茶と水だったりする。
以前では想像できなかった光景だ。


オレが子供の頃は、家で水を飲むことはなかった。
母親が水出しパックで麦茶を作ってくれており、主にそれを飲んでいた。
もしくは、定期的に販売所が届けてくれる1ℓパックの牛乳。
そう、オレにとって家庭での飲料は、お茶と牛乳の二種類しかなかったのだ。

もちろん、水を飲むのに抵抗があったわけではない。
中学校、高校にはウォータークーラーが設置されており、
夏場の休み時間は、常にその前に生徒たちが群がっていた。
人よりたくさん水分を摂取するオレも、必死に並んだ。
部活のときなんかは、その水はまさに文字通り「命の水」だった。


そんなオレにとっての飲み物の優劣は、

水(タダ)<麦茶(タダの水から作る)<牛乳(家にある)<ジュース(お金がかかる)

という構図だった。
だからお茶や水を買うなんて考えは、微塵もなかった。
お金を使うなら、ジュースしかあり得ない。
そうじゃないと、損をした気分になるのだ。


その考えが崩れたのは、上京をして一人暮らしをするようになってからだ。
子供のころからの習慣で、家では麦茶を飲みたいと思っていたが、
自分で作るのは面倒だ。
そして、スーパーに行けば、2ℓの麦茶が200円ちょっとで売っている。
手間を考えれば、買うのも悪くない。
そんな感じだったと思う。

そのうち、好みが変わり、麦茶ではなく今はキリンの生茶を愛飲している。
しかし、相変わらず水を買うのはバカだと思っていた。

ところが、昨年からジムに通うようになって、体のことをいろいろと考え始めたオレは、
スポーツ時に飲みやすく、さらに体にいいのは水だという結論に至った。
そして、ついにバカだと思っていた水を買うという行為に出たのである。
今では、毎日ボルヴィックの500mlのペットボトルを購入している。

とは言え、やはり毎日これでは不経済だと思ってしまう。
137円/1本×30日=4110円
水に1月4000円はどう考えてもひどすぎる。
別に水道代を払っていることを考えればなおさらだ。

けれど、今さら水道水を飲む気にもなれない。
水の味とか大してわからないけれど、
水道水は美味しくないという刷り込みがどうしてもなくならないのだ。
いろんな知識や経験が、価値観を変えてしまうんだろう。
子供の頃は平気で触れた虫が触れなくなる感覚に似ていると思う。

そこで、もうちょっと安い水を大量に買うことにした。
2ℓで140円のペットボトルを購入し、それを4日分の水だと考えると、
一ヶ月の飲み水の費用は1050円に抑えられる。
その差は年間で36000円、絶対にそうするべきである。

というわけで、毎日の持ち歩きのために水筒を購入した(写真)。
2980円也。
一ヶ月続ければ、すぐに元がとれる値段だ。


時代が変われば、価値観も変わる。
自分も変わる。新婚当初はラブラブの夫婦でも、10年経てば不倫したいという願望が生まれる。
しかし、いつも、いつまでも、できれば身軽に、スマートに生きてみたいと、
最近ことに思ったりする。